引っ張ることの大事さ

2022.10.14

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メル・クリーガーさん夫妻といっしょに日本各地を訪問し、数多くのスクールを開催できたことはまさに私にとって役得でした。「教える」ことに真剣に取り組む姿勢がすばらしかったのはもちろんですが、時に応じてクリーガーさんが発した言葉も、私の頭の中に残っています。今日はそんな珠玉のアドバイスの1つをご紹介しましょう。

 

「肘でリードする」。

 

名著『エッセンス・オブ・フライキャスティング』での解説には「どんなキャスティング・ストロークでも、きっちりと引っ張る動作で始めること」と書いてありますが、それをさらにわかりやすく噛み砕いたものと考えてよいでしょう。

 

ロッドの動かし始めに、肘以外のところ(=だいたいは手首)を使ってしまうと、ロッドティップがさいしょに上方向に動いてしまい、結果としてループの上側がぽわんと丸くなってしまうわけです。それを避け、よく飛んで正確度の上がるストレートなループ上部を作るには、「肘でリードする」のが大事だと彼は言いました。

 

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最後のフォワードキャストの連続写真を見てみてください。止まった肘の位置と、リストの角度に注目です。1枚目から2枚目は、リストの角度を維持したままで「肘でリード」。私が投げているのはかなりのショートキャストで、ループは前傾しますので、腕の動きも上下動が大きくなっていますが、肘だけがすっと下がってきているのが見えますよね? それから前腕を倒してロッドの角度を変え始め(3枚目から4枚目)、最後にリストをすっと閉じ終える。

 

キャストの距離が変わると、またロッドが変わると肘の動かし方も変わりますが、どんな場合でも体の動きとして共通させたいのは、肘だけをまず動かし始めるということを、クリーガーさんはとっても大事なコツとして教えてくれました。私が観察してきたなかでも、うまい人は意識するしないにかかわらず、これをやっています。短いフレーズですから、頭の片隅に入れておけば、さらなるステップアップのときのハシゴとして使うことができるはず。さらにさらに言うなら、腕利きスペイキャスターは、スタイルを問わず、両手でこの動きを実現していると思います…… そのことは、また次の機会に。

 

Tight Loops!

 

 

 

東 知憲

でかし楽しの「6パラ」

2022.10.01

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我がヒットフライは、二度と使わずに持ち帰って保存してある。そのコレクションボックスの端に、あまり刈田チックでない異様なフライが並んでいて、それが6パラ。フックサイズ6番のパラシュートタイプドライフライのことで、超大型のシャックドリフターをイメージしている。もっと大きくても歓迎だが、必要な条件を満たすフックをまだ見つけていないので6番にとどめている。ドライフライに仕上げる大型フックなので細軸、そしてもちろんバーブレスであるべきだ。フックシャンクは生物っぽくカーブしていないといけない。

 

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サイズ比較用として6パラの下に刺してあるのは、24番のコカゲロウスペント。どちらもすごくよく釣れるスペシャルフライだ。スペントは、難易度の高い連続系ライズ対応のスペシャルフライ。他方、そこに来ているなとわかっていても、なかなかライズしない厄介なヤツを飛びつかせられるのが6パラなのである。

 

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栃木県でのこと。ヤマメしかいないはずの川幅10メートルもない渓流。昼ころにライズを探しながら堤を歩いていると、平瀬の流心でモワッと大きなディンプルライズを見た。シメシメと準備して、川に降りキャストポジションについた。けれど一時間経ってもまったくライズが続かない。イライラと流れを見つめていると、巨大な魚影が左右に動いている様子がぼんやりと見えた。手が震えた。それなのに一向ライズしないまま、更に一時間。困り果ててよくよく考えるうちに、先ほどの水紋はノーマルなライズでなかったのじゃないかと思いついた。あの魚体なら上層で反転しただけなのかも・・・だったら6パラで驚かしてやろうと考えた。14時3分、ガボンと6パラに出たのはニジマス。刈田好みなポッチャリで無傷な魚体なので、ずっと下流から遡上してきた個体なのかもしれない。

その魚の捕食物が上の写真だ。フタバコカゲロウのシャックも見えるが、ほとんどがヒラタカゲロウのシャック・・・やっぱりだね。あの魚体でシャックばかり食べていたのでは、欲求不満にもなるだろう。6パラというデカフライは、こういうトラウトをも飛び出させる、恐ろしくも楽しいフライなのである。ともあれ、水生昆虫の脱皮が日中メインに行われるというところが重要。それで日中のライズにシャックパターンが有効となる。

 

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捕食例その2。大きなドリフターとはどんなものかといえば、たとえばこのヘビトンボのシャック。コカゲロウのダンやチェルノバマダラカゲロウ のシャックも食べてはいる。それでも推定50ミリもある大きなシャックが流下してくれば、パックリといくのだ。

 

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捕食例その3。小さなシャックをごっそりと大量に食べていた個体が、体長20ミリを超えるストーンフライのシャックが流下してきて2頭食べ、一気に活性が上がってフライに飛び出して釣られてしまった。この捕食例からわかるように、あれこやこれやの小さなシャックドリフターにマッチするのは難しいけれども、大きなドリフターならパックリというケースもある。ちょっとずるい? しかしこういう裏技的フライフィッシングも覚えておくと良いのでは。

 

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矢印に見えているヒレが、ライズの名残なのかはよくわからない。一発系で、連続しては起きない「ライズっぽい現象」の可能性もある。それでもでかいトラウトがそこにいて何やら活性高く動いているということは確かで、こういうトラウトには6パラシャックが効く。

 

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6パラは、ハッチではなくて、年中いつでも流下する可能性がある大型シャックにマッチするフライ。そこが良い。いつでも日中に使えるビッグドライフライだから楽しい。ハックルには、細くてもハリのあるヒーバートのドラフライハックルを使っている。接水面のハックルファイバーを水平に巻くことで、薄いハックルなのにぽっと浮く。シャックのボディは、水面下をドリフト。パラシュートパターンのメリットを最高に発揮できるようにタイイングしてある。良質なハックルは、この程度の量でよく水面を捕まえる。ハードな着水は、強く不自然な水紋を引き起こし、繊細なライザーを警戒させてしまう恐れがあるから避けたい。6番のフックはそれなりの重さがあるのに、長いハックルファイバーがフライのソフト着水を可能にしてくれる。ボディには、下巻きでシルエットを作ってからヴェインファイバーのダークシャックを巻いてある。

 

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6パラフライを自在に流心へドリフトするために、ロッドは5番がベスト。よく使うのは、スコットのG905にairfro RIDGEラインのWF5。モンスター大歓迎のシステムだな。

 

刈田敏三

曲がるロッドが好きな件

2022.09.06

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キーボードを叩くことは私の大きな仕事の1つですが、この程度の小さな肉体労働でも、毎日少しずつ無理が積もれば故障につながってきます。かつてラケットスポーツで故障の種を作ってしまったところに、昨年の渓流ですこし手を痛めたこともあり、ライトラインの釣りでもロッドハンドに痛みが出るようになりました。お医者に言わせれば安静が一番、なのですが季節と魚は待ってくれません。

 

フライフィッシャーは年齢を重ねるごとに柔らかいロッドが好きになってくる傾向にあるようです。経験を重ねていくと、趣味性を高める方向に嗜好が振れていくのが理由だろうと思っていましたけれど、そうでもなさそう…… 故障を自分で体験して分かりました。質の高いデザインを与えられた、よく曲がるロッドの利点とは? 皆さんも考えてみてはいかがでしょう。私のいまの答えは、

 

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○ 深く曲がり込むことで、てこの長さが実質上短くなり、手にかかる負荷が軽減される。

○ 曲がっている時間が長いので、キャスティングのテンポもゆっくりになる。

○ ループの発生位置が低くなるので、すぐ着水させることができ、風に強くなる。

○ 曲がった部分を後ろにある「オモリ」として使う事ができるので、向かい風に強くなる。

○ 掛かった魚が外れにくく、ファイトも短時間ですむ傾向にある(気がする)。

 

フライロッドの難しさとは、少し硬くなると上の番手に、柔らかくなると下の番手に移ってしまうことですし、そもそもが各人の釣り方、ライン、釣り距離、好みなどによって曲がりの基準は変わってきます。「自分が投げる距離で、いつものテンポ感で投げて快適なら、選択したラインとの組み合わせは可」くらいにゆるく考えておいた方が良いでしょうね。

 

私はスコットをはじめ多くのメジャーメーカーが現在採用している「単番手指定」(たとえば#4指定)に賛成ですが、それはあくまで汎用基準と考えておきましょう。前後それぞれ1番手は調整範囲として含んでおくべきですし、指定からズレたラインを使う事に抵抗など感じる必要はありません。そういった意味で、かつての時代にラス・ピークやウォルトン・パウエルが採用した3番手指定というのも、とてもよく理解できるのです。

 

東 知憲

クリーガーさんが思う「シンプルさ」

2022.08.16

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私の最大の師匠はメル・クリーガー。彼の翻訳者・通訳者兼プロモーターとして10年ほどいっしょに仕事をさせてもらったことは、とても幸運だったと思います。彼の本は「エッセンス・オブ・フライキャスティング」ただ一冊(書きかけの遺稿はあるのですが、それをどうしようか、奥方とずっと話しています)。そして、彼が1990年ごろにFFF(現在はフライフィッシャーズ・インターナショナル)のために書いた、たった1ページの文章は、彼の到達した境地を語るものであり、かつこれから後進を指導したいという人たちにとって、必ず押さえておいて欲しい内容なので、(故人の許可に基づき)ここに掲載しておきます。シンプルの体現……言うは易く行うは難し、です。「それしかできない浅さ」と「一周回って戻ってきた深さ」の区別も、なかなか付きにくいものですが、凄みとはシンプルさの奥からにじみ出るものでもありましょう。では、以下はクリーガーさんがつづった珠玉の文です。

 

 

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フランク・マタレリとともに、2004年

 

シンプルさの考察

 

「完璧」が達成可能だとするなら、それは付け加えるものがないという状態ではなく、取り去るものがなくなった状態だ。裸になるまで飾りをはぎ取った形である。  

 ……サン・テグジュペリ

 

飛行機を見ると分かるように、計算と計画、数多くの草案と青写真の結果として生まれるあらゆる人工物に関して、究極といえるのはシンプルだ。個人的には、効率をめざした現代的ビルの幾何学的な形よりも、茶色の砂岩を張ったクラシックな家やビクトリア朝ふうの邸宅を選びたいとはいえ、サン・テグジュペリの言葉には真実の響きが宿っている。完璧なフライキャスティングは、その良い例だ。まっすぐに伸びるライン、余分な力の入っていないロッド、無駄のない手や体の動き……すべてのエネルギーは、ロッドを通じてラインへ、そしてフライへと伝えられる。そして、この「シンプルさの原則」は、コミュニケーションと指導の面においても忘れることができない。

 

私の友人ネルソン・イシヤマは、著書「エッセンス・オブ・フライキャスティング」の編集を手伝ってくれたのだが、彼の貢献は言葉や文章の整理だけに留まらない。共同作業の初期段階において、彼は私にこう聞いた。「この本の目的は、キャスティングを教えることかい?」ほんとうのことを言えば、私がやりたかったことは、インストラクター仲間や世界を相手に、フライキャスティングはこういう風に分析するのだと示し、我が名を石碑に刻み込み、メル・クリーガーこそキャスティング相対性理論の提唱者であると認めさせることだった。しかし、当時の私はその気持ちを認めたくなかったので、ネルソンの提案どおり「これは学習のために役立つか?」というチェックをいちいち行うことにした。フライキャスティングには、数多くの複雑で込み入った理論的なコンセプトがあるが、それをできるだけ取り去って、基本的な真実と単純な説明だけを採用しようと決めたのだ。写真、イラスト、数多くの文字をゴミ箱に送った。そうすると、奇妙とも思えることが起こった。魚の殺戮者からキャッチ&リリースの実践者へと変身したように、私はいつしか、この新しい方向性が気に入りはじめ、生徒を教えるときにはかならず、シンプルさを心がけるようになったのだ。

 

シンプルさを、基本だけの指導、あるいは簡単さと混同しないで欲しい。普通は、その逆なのだ。上級キャスターの指導に際しては、きわめて基本的な調整が必要になる場合が多い。たとえば、手の位置をすこし変えるだけでテイリング・ループやタイミングの悪さが治ったりすることはよくある。しかし、基本の基本に原因を探し、調整を行うのは、簡単な仕事ではない。シンプルさのためには、長い時間、努力、そして経験が必要になる。ある有名な作家はこう書いて手紙を締めくくった。「長い手紙になって申し訳ない。時間があれば、もっと短くできたはずなのに」。

 

フライキャスティングの指導における最大問題の1つ、「教えすぎ」(オーバーティーチング)は、2つのパーツから構成されている。まず、生徒を1人にする時間を与えていないこと、つまり他人からの指導という邪魔が入ることなく、自ら学習を進めてゆく時間を与えていないこと。次に、教える内容の盛り込みすぎである。果たして、私はこの問題を克服できているか? とんでもない! 私自身、スクールにおける最大の問題は、多すぎる説明、長すぎる文章、多すぎる批判、多すぎる「やって見せましょう」……つまり、オーバーティーチングなのである。しかし、私たちインストラクターにとって、シンプルな「誰かにキャスティングを教える」という作業と、健全な自己意識(これは良いインストラクターに欠かせない要素でもある)間の複雑な関係を、バランスをとりながら改善してゆくためには、理解こそが第1のステップだ。そうすることによって、インストラクターも生徒も、ともに成長してゆく。

 

学びの真髄は、実行にあり。
教えの真髄は、刺激にあり。

東 知憲

切り札は 24番

2022.08.01

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ジリジリ陽射しな真夏の午後には、釣る気も失せる。そんな8月20日午後2時。ちょうど日陰になっていたバス停脇に車を止め、道路から下の川を見た。そこには、釣りというよりもザブンと泳ぎたいようなプール。どうせイブニングまでは・・・と眺めていると、ややっ? まさかのライズ発見。

 

浮いてきた魚影が水面に触れ、スッと沈んだのだ。急いで双眼鏡を向けてみるとパーマークが見えた。しかしライズレーン上流あたりを注目しても、ドリフターらしきは何も見つからない。つまり、ここからは見えないほど小さな虫らしいと気がついた。ハッチがほとんどないような季節の日中でも、フラット系の水面にディンプルライズがポツポツ出るのはよくあること・・・だが、釣るのは難しい。さて、どうするかな?

 

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「夏」「晴れ」「日中」「小さい」などのキーワードから思いつくのは、まずアントである。日本全国で最も普通に大量生息しているトビイロケアリなどは、働きアリの体長が3㎜位。ウイングドアントになっても3.5㎜位という極小ドリフターで、結婚飛行は夏の朝。他には、デプテラ、コカゲロウ スペント、ミッジスペントなども状況によっては考えられる。

 

川に出れば、いつも未知なる現象に出会うもの。わけのわからない謎のディンプルライズには、極小フライをキャストするというのが刈田の切札。決め手になりそうなフライあれこれをタイイングするのだが、問題はフックで、強度と重さのバランスが気になる。刈田の場合は、TMC206BLの24番を使っている。極小フライなんてタイイングも実釣も無理だよという同輩アングラーも多いが、やっかいそうに感じるタイイングもヴェインファイバーを使えばスイスイだし、難しいライズが釣れる快感は大変な魅力だ。

 

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ウイングドアント24番。ドリフターが、ウイングのないアントでも問題ない。アントは、晴れた天気の良い日ほど多くドリフターになってくる。VEEVUS 16/0スレッド(以下同じ)でアブドメンやソラックスを作り、ヘッドセメントで補強。ウイングは、ヴェインファイバーのシナモン。ウイングは、長めにカットするとソフト着水も半沈みドリフトもイージーになる

 

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デプテラ24番。水辺には、いつでも飛び回っているハエ目アダルトあれこれのイメージにマッチするフライ。アブドメンは、ターキーバイオットのトライコ色。ソラックスは、ピーコックハールをスレッドに巻き付けて使用。ウイングは、ヴェインファイバーのシナモン

 

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ミッジ24番。デプテラよりもスリム体型のミッジは、午後の後半からイブニングに多く水辺に降りてくる。アブドメンはスレッドで巻き、フラッシャー系の細いテープを巻いてヘッドセメントで固定してある。ソラックスは、そのままスレッドでシルエットを作る。ウイングは、ヴェインファイバーのシナモン

 

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コカゲロウ スペント24番。晴れた日に多く流下するコカゲロウ スペントの極小サイズ。小型種ほど多く流下するところが目のつけどころ。ボディはスレッドで褐色から赤褐色に水性顔料マーカーで染める。アブドメンには、XXファインのシルバーワイヤでセグメントを表現してある。以下に、重要なウイングの取り付け方を説明しよう。

 

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24番フックにヴェインファイバーウイングをセットする手順。作例はコカゲロウ スペント

 

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ヴェインファイバーを小さなフライに使うときには、元の束(上)から、

はみ出しているファイバーを指と爪で削ぎ落とし、全体をスリムにして使う(下)

 

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フックアイの根本に、ヴェインファイバーを載せてクロスにスレッドをかける

 

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左右のファイバーをそろえてフックベンド方向に引いておき、

その根本にスレッドを6~7回巻き重ねる

 

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 根本へスレッドを入れて、ウイングをバックウイング形状に開くようにセットする。

スレッドワークの回転が逆の方は、手前から向こうへスレッドをかけることになる

 

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ウイングをスレッドワークで開かせた状態。

ウイングを体長より長めにカットして、ファイバーをほぐし、リアルな印象に整えれば完成

 

 

私はこの手のフライに視認性を求めていない。見えないという課題には、ライズする魚の動きで対応する。24番フライのメリットの1つは食い込みが良いことで、瞬間的なフックセットの必要はなく、ロッドティップをスッと持ち上げるだけの聞きアワセでググッと乗る。また、極小フライはライズを釣るのに大事な「ソフト着水」が実現し、その希薄な存在感から「見切られにくく」、ライバルフライフィッシャーが使いにくいから「スレてない」というメリットもある。お試しください!

 

刈田敏三

悪道の果てに

2022.07.16

A Trout Hunter[5]

 

 

 by レネ・ハロップ

 

 

7月の早朝。前に巻き上がる土煙が、「ウッドロード」として知られるこの悪路に先行車があることを教えてくれる。歩くくらいの速度でしか進むことのできない私の古いトラックは、深い溝や穴を乗り越えるたびにきしみ、うめく。ヘンリーズフォークの「ハリマンイースト」および「パインヘイブン」と呼ばれるポイントに入るため、この道を走った数知れぬ者たちが作り上げたわだちだ。

 

わずか1マイルほどではあるが、舗装道から逸れたダートになるこの行程は30分ほどかかり、あらかじめそれを計算に入れておかないと貴重な釣りの時間が犠牲になってしまう。道が終わったところに数マイルにわたって広がるのは、腕利きフライフィッシャーたちでも難しさに苦労を強いられる川の、さらに厳しいセクションである。水藻が茂る、ゆっくりした流れのこの区間は、豊かなハッチに比例して多くのマスを育むが、多くのアングラーが魚を手にできる日はむしろまれで、成果を得られずに戻ってゆく人も多い。

 

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ウッドロードを走る苦労と引き換えにライズするマスに出会えるなら、私はそれもよしとする。その期待が裏切られることはほとんどない。しかし、何時間もキャストを繰り返し、良型のマスを1尾でも手にできたら満足という心の持ちようは必要だ。

 

元気に溢れ、しばしば超大型に成長するレインボーは、フライを口にした後に猛烈な抵抗を見せる。川幅が広く、立ち込みが可能な水深は岸近くに限られるこの区間において、ネットに魚を導くための技術は、フライのプレゼンテーションに比肩するほど大事だ。テイルウォークに続き、バッキングを引き出す灼けるような走りは、途切れのない集中、細く強いティペット、繊細なドラッグを持った高性能リールなどの組み合わせでしのぐ。すべてが計画通りに行っているように思えても、藻の塊によってファイトが唐突に終わることもある。

 

戦士の魂を持って勇ましく戦おうとするマスの引きに合わせ、アングラーは必要なときにプレッシャーを解除する、ロッドを送り込むなどの動作をしなければならないのだが、パニックに陥って集中を欠くと、それでお終い。しかしすべてがうまく行き、究極の対戦相手の頭の下にネットを滑り込ませ、脈打つ重さを感じるときの気持ちは言葉に尽くせない。そして、この貴重な生き物をそっとリリースするときの気持ちは、他に類するものがない。ヘンリーズフォークでの「成功」を測る尺度は、手にしたマスの数以外にもある。

 

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開けた川岸がずっと続くので、アングラーは一箇所に自分を縛り付けておく必要がない。歩き、観察し、考えるのはハンターの性質であるが、マスを探すためにもそれは活用できる。マスは、川のどこにでもいるというわけではなく、ヘンリーズフォークでも同じだ。ターゲットを探し出すためには時間と努力をつぎ込まなければならないが、そこには楽しさもある。狙うに値するマスが見つかれば、次なるプロセスの期待感が湧き上がってくるのだ。途中で失敗しなければ、試行錯誤で1時間ほどは楽しめるかも知れない。攻略戦略には、太陽の位置、風、流れ、障害物などを考慮したポジション取りも含まれる。キャスティング距離にまで近づくのは決して急ぐことはできないので、水面を観察してマスのターゲットを絞りながらゆっくり進んだほうが良い。

 

長生きしたマスは経験を積んでいるので、警戒されないためにはキャスティングも最少に留めなければならない。「ファーストキャストが最高のキャスト」というのは誇張でも何でもなく、プレゼンテーションを繰り返せば成功の可能性は減っていく。しかしマスとの対峙は、ハッチが継続してアングラーが大失敗さえしなければ、何時間も継続できる可能性がある。

 

1尾の生き物と集中して向き合い、フライを替えてプレゼンテーションを繰り返すという集中のなかには、魔力が潜んでいる。結果が得られないときもあるが、大型で用心深いマスがフライを受け入れてくれたときの高揚は、他に類するものがない。私の知る限り最高レベルに厳しいこの釣り場で「成功」を実感するためには1尾でじゅうぶんということを、私は先日、ウッドロードの果てで再確認した。

 

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ガタガタ道を走ってトム・ワトキンスと私が川辺に着いたのは、ウエーダーを履いてロッドにラインを通しているうちにスピナーフォールが終わってしまおうという時間。私とトムはしかたなく、二手に別れて魚を探し始めた。結局、この出発点に帰ってくるのは6時間後だ。

 

昼前に始まったペール・モーニングダンのハッチにより、私は何百ヤードか上流側で、積極的に捕食を行うレインボーをターゲットにほぼ4時間、休みなくキャストを繰り返すことになる。ハッチが終わるころ、私のフライパッチにはマスのお気に召さなかった6本が留められ、6x のティペットも30センチほど短くなってしまっていた。唯一手にできた20インチの魚は、私の全力をあざ笑うように魚が大胆な捕食を繰り返す日にあっては、自然からの気前の良い贈り物と思えた。しかしそれなしでも、楽しい苦悩に満ちたその日の釣りは成功だったといえるだろう。帰りのガタガタ道をゆく間、考えることはたくさんあった。次はいつにしよう、と思った。

 

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ランチで再び

2022.06.21

A Trout Hunter[5]

 

 

 by レネ・ハロップ

 

 

ハリマン・ランチのオープニング、6月15日はフライフィッシャーにとって特別な日。長年ここを釣ってきた私にとっても、それは変わらない。他のローカルな釣り場はだいたい通年開いていることが多いのだが、世界でもっとも難しい釣り場の1つ、ヘンリーズフォークのフライオンリー・セクションは、1年のうち半分ちかくがクローズとされ、動物が守られている。ここで自分のスキルを試したいと考えるなら、タイミングを計らなければならないのだ。

 

アイダホ州に土地を寄付する条件としてハリマン家が提示したこのクローズ期間は、絶滅が危惧されるナキハクチョウを初めとする鳥類の繁殖地として、ランチがいかに重要かを彼らが認識していたからだ。アイダホ州で最初の州立公園となったハリマンランチは、幼い鳥がすでに巣立った6月15日をオープニング日と定められた。深い森が迫り、彼方に峻険な岩山がそびえるこのメドウ地帯は、別の領域において魔力を感じる人々の聖地ともなってきた。かつては歴史豊かな私有地だったこの場所に一般市民が立ち入れるようになってからおよそ50年、ランチのオープニング日は、世界から人が集まり話が盛り上がる、社交イベントとなった。

 

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およそ8マイルにわたって、おだやかで徒渉可能な流れが続くランチの釣り場は、最大で100人ほどの人が、なごやかな釣りを楽しむことができる。活き活きとしたスピリット溢れるこの土地を愛するという共通点によって、見知らぬ人たちが親しい友となる。オープニングで年に1回顔を合わせ、各地へ戻ってゆく人も多い。

 

オープニング前の一週間、ラストチャンスの小さな集落は、さまざまなナンバープレートを付けたクルマが集結しはじめる。英語を話さない人たちも多く、このイベントの重要性が世界的に知られていることが分かる。ビング・レンプキ・アクセスの駐車場が一杯になると、ごく特別な場合にしか見られないエネルギーが充満してくる。この駐車場は、川で今なにが起こっているかというストーリー集結の場、かつ過去のできごとを振りかえるところでもある。グラバルピットの夜は、焼けるステーキ、香しい葉巻、濡れたリトリーバー犬の匂いが入り交じる、いかにもオープニング日らしいもの。キャンパーたちが作り上げるこの小さなコミュニティにおいて、火は夜遅くまで燃え続ける。煙と脈動するような炎のむこうに、昔はすこし違った顔をしていた友達がいる。ここにいない者たちのことも思い出す。毎日が今よりもゆっくりと過ぎていき、圧力も小さかった時代を生きた人たちだ。

 

そんな祝祭の日々は、6月15日をはさんで1週間ほど続く。私は、ランチの北入口に設けられた古い木製のゲートを通り、踏みしめられた小道を行く。150ヤードほど進み、水路を1本渡ったところで、私は75年の人生においてつねに変わらないパワーを伝えてくる光景を目にする。トレイルの上には、まだ朝早いのに先行者が見え、すでに立ち込んでいる人たちも、はるか彼方まで散らばっている。

 

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昼を挟んで午後になると、虫の活動はだいたい収束してしまい、夕方を待つだけ。朝と同じ突然さで、川からは人がはけていく。駐車場で、昔からの友人とビールを飲みながら交わす釣り話のネタとして、レインボーがまだ何尾かはライズしているだろうが。

 

ランチのオープニングは、昔からの儀式として私が大事に思っている行事の1つである。これを境に、ヘンリーズフォークの夏がやってくるのだ。

 

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ドリフターへの挑戦

2022.06.01

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告白。以前の私は、 釣れるフライパターンこそが最高、いいフライなんだと思っていた。だから有名パターンに憧れ、レシピ通りのタイイングに熱中した。釣れりゃあいいのだ……そうなんだけど、フライって私にとって何なのだろうとある時考えた。いくらか見え始めた水生昆虫の実像が頭に入りつつある頃のことだ。ドリフター対マイフライでは、マッチレベルがとんでもなく低いことに気づいた。ショックだった。そうなるともう、自分で納得のいかないデザインや仕上がりのフライは使う気がしない。気持ち沸き立つライズ現場は、これなら「マッチできる」と確信を持てるフライで釣りたい。

 

 

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ドリフターの現実、オオクママダラカゲロウのダン

 

ライズを目撃、ヨシ行くぞという時に、こんなドリフターを見たらどうだろう。あなたのフライボックスに、マッチしそうなフライがあるだろうか。最初は、私もガックリ絶望したが、やがて気がついた。ライズを釣る最高のヒントを手に入れられたのに、フライがないと嘆いている場合じゃない。この本物に近づけるようなフライをタイイングすればいいだけのこと。なにせ、本物を知っているのだからすばらしく有利じゃないか・・・ワクワクしてきた。

 

そうなんだ、私にとってはライズする魚が口にするドリフターこそが先生であり、フライパターンの行き着く究極のデザインがそこにある。ドリフターを観察する価値は、とんでもなく大きいと気づいた。すると、何とかしなくてはならないのは、ダンやアダルト、スピナーのウイングに使う素材だった。市販品ではぜんぜん納得できないから色々と探してみたけれど、ペラペラ感があり硬質なプラスティックシートなどは嫌だなと感じた。

 

メイフライであれカディスであれ、変態直後のダン/スピナー/アダルトは「ヴェイン」と呼ばれる管を経由して体液を注ぎ込んで羽を伸ばし、時間とともに硬化する。羽は、枝状に伸びたヴェインが支えている。

 

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ヴェインは、このような枝状に広がっている

 

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私のオリジナル、ヴェインファイバーを透過光で見るとこんな感じ

 

 

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カーブを持ったカットをすると、ぐっとウイングらしくなる

 

ヤマメは、流れの下から空をバックに透過光でフライを見る。透過光で見えるウイングにはヴェインの表現が欲しい。フライの機能パーツとしては、柔らかさがあり、水面膜に囚われたトラップト個体を表現する場合には、ボディを支える張りも必要。また、納得出来る色合いも欠かせない……そんなマテリアルが欲しいと思って探した。

 

まず試してみたのは、やっぱりシルク。絹糸は、昆虫が生み出したものだ。けれども、フライのボディを水面で支えるような張りが足りないし、ファイバーが繊細すぎて扱いにくい。結局、長期間をかけてマテリアルを探し回り、タイイングを繰り返して今のヴェインファイバーにたどり着いた。

 

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ダンへの使用例

 

 

ウイングは、ヴェインファイバーの「シナモン」と「ダークダン」をミックスし、アブドメンには「ライトケイヒル」を巻いて、オリーブブラウンの水性顔料マーカーで染めてある。ライトケイヒルは、褐色と淡色のミックスしたファイバーなので、アブドメンとして使いやすく、マーカーで染めれば様々なライズシーンでマッチ出来るようなマーカーアレンジが容易。これは、現場でマーカー染めをやるのがお勧め。まず淡色のボディにタイイングしておけば、マーカーで必要な濃色に染めるのは簡単。

 

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スペントドリフターの例

 

 

エラブタマダラのスピナーだが、そのウイングは透明でほとんど見えないと感じるほど。けれども、この透明なウイングは張りもあってスペントのボディをしっかり浮かせられる。



 

 

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エラブタのスペント対応フライ

 

 

フライにタイイングしてみる。アブドメンをヴェインファイバーの「ライトケイヒル」で巻いてから、水性顔料マーカーでライトブラウン系に染めてある。ソラックスはヘアーズイアをダビングしたが、これも同じマーカーで染めてある。ウイングは、ヴェインファイバーの「キナリ」。このぐらいに出来れば、自己満足ながらキャストする元気が湧いてくる。

 

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ゲゲっと驚くドリフターの現実!

 

 

ストーンフライをイメージしたフライパターンは東西にたくさんある。けれども、ライズ現場で本物のドリフターを見ればやっぱりショックを受ける。「まるで違う」のだ。初夏からの季節、山地渓流の午前中にはミドリカワゲラなどがさかんにハッチしており、ポロポロと流れに落ちている。このドリフターには、シャック、縮れたウイングなど、魚にとって捕食しやすい要素が揃っている。

 

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ミドリカワゲラノックダウン

 

フック・・・TMC206BL #16

スレッド・・・BENECCHI’S UF ペールイエロー

アブドメン・・・ヴェインファイバー ライトケイヒル

シャック相当部分は、茶色の水性顔料マーカー「茶」で着色

ソラックス・・・ヘアズイア

ウイング・・・ヴェインファイバー キナリ

フライボディ全体は、イエローの水性顔料マーカーで着色

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この記事で使ったヴェインファイバー

 

 

キナリ、シナモン、ライトケイヒル、ダークダンだ。他にも多数のカラーバリエーションを揃えてある。万能マテリアルであるなどと主張する気はないが、この素材を使ったフライをボックスに入れておくと、悩ましいライズ状況に直面した場合の心強い味方が増えることは保証させていただく。まだ使ったことがない皆様も、ぜひ一度。

 

刈田敏三

TYING TIP May 20

2022.05.20

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丁寧に、なんども繰り返すこと

 

今年91歳になるメアリー・デッティには、会って話を聞いたことがあります。ニューヨーク州ロスコーは、ビーバーキルの流れのほとりにある小さな街で、うっかりするとすぐに見落としてしまうくらいの集落ですが、その中に控えめな看板を掲げた、お店ともなんとも分かりづらいクリーム色の外壁をした小ぎれいなお店の中にメアリーおばあさんは座っていて、フライの整理と伝票の処理をやっていました。目の前にはダイナキングのバイスと、各種の基本ツール類が、いつでも仕事を開始できるように置いてあります。東のデッティ家、西のハロップ家は米国フライタイイングの世界に残った2つのファミリー。1928年にウォルトとウィニーの夫妻がキャッツキル地方で開いたタイイングのビジネスは、娘メアリーに引き継がれ、メアリーの孫のジョー・フォックスが継ぎ、いまも地元タイヤーが巻いたフライを販売すると同時に、しっかりとした釣具店としても存続しています。

 

デッティ家が世に送ったオリジナル・パターンは数多くありますが、私が好きなのはウォルトが巻いたデラウエア・アダムズ。パラシュートではなくスタンダード・ハックル。高く浮くキャッツキル・ドライの基本シェイプを持ちつつ、英国流のボディーハックルのおかげでよく見えて、初夏の川にぴったりのカラーですから、東北に向かおうという私も1ダースほどこしらえようとしている段階。グリーンのボディが新緑の光の中でよく目立ち、魚も気に入ってくれます。

 

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本年3本目のデラウェア・アダムズ(改)ですから、まだ突っ込みどころ満載ですが…

 

彼らがタイイングを生業にしていた時代、マル秘テクニックは決して口外しないものだったようです。それは、アメリカン・フライフィッシングの父祖と考えられるセオドア・ゴードンからしてそうで、誰かを手取り足取り教えてしまうと、自分の食いぶちを減らしてしまうことに直結してしまう。ルーベン・クロスはそんな「伝統」に逆らって、”Tying American Trout Lures” 『アメリカのマス用ルアーを巻く』(かつてはフライもルアーの一種と分類されていました)と” Fur, Feathers and Steel” 『毛、羽根と鋼』(いいタイトルですね!!)を出版し、後続のキャッツキル・タイヤーたちを育てたことになりますが、彼とて、知っていることすべてを文字や写真で表現したとは思えません。クロスの後続世代になるウォルト&ウィニー・デッティとハリー・ダービーたちは、結局は先輩が巻いたフライを買って、解いて理解するしかありませんでした。本に書いてあることと、実際にやっていることが違っていたケースもあったそうです。

 

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キャッツキル派テクニックの源流がここに初公開されたわけで… (1930年頃)

 

結局は、そうなんです。自分でやってみるしかない。どれだけ本で読んでも、ビデオを見ても、あるいはデモンストレーションをしてもらっても、ここぞというフライは自分で巻くのがもっとも確実な方法。現代社会に残った掃き残しの一角、チマチマしたことの多い釣りの世界においてもさらに特殊な領域がフライフィッシングです。私も、フライというエサを自分で作り上げることに慣れてしまったので、ごくたまに生餌やルアー、餌木(イカ用)をお店で買うには「えっと、準備はこれでいいんだっけな…」という罪悪感にも似た気持ちが伴います。

 

シーズン前、久しぶりに渓流用のドライフライを1本巻くと、いやになるくらいぎこちない。テールとしてむしりとる毛の本数やダビングの量、ハックルの巻き量などがぜんぜん理想と違う、ということを体が理解していない。3本くらいで、やっと感じがわかってきて、6本巻くころにはだいたい各所に油が回り、バランス感や指使いも戻ってきます。ロスコーのお店でメアリー・デッティと会ったときに「コマーシャルタイヤーとしての秘訣はなんですか? うまくなるにはどうすればいいです?」と聞くと、「同じものを、まとめてたくさん巻きなさいな」と言われました。僕は、彼女らのように1日100本もタイイングすることはできませんが、生産スケジュールは6本ずつにしています。そしてやっぱり、最後の1本の仕上がりがいちばん良い。マテリアルの選定、指使い、スレッドワーク、テンション操作などを組み合わせて良いエサができたときの充足感は、お金を稼ぐニーズとまったく関係がないところに集中を注いでいるというささやかな背徳感も含め、言葉に表現できないものがあります。

 

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ペンシルバニアの主、ジョージ・ハーヴェイがタイイングをアドバイス

 

この文章をお読みの方には、フライフィッシングを初めたばかりという方もいらっしゃると思いますが、次ステップとしてフライタイイングは強くお勧めします。向き・不向きは確実にありますし、これができないとフライフィッシングが楽しめない、ということは全くないですが、釣り人生を楽しむための取り組み課題として、タイイングほどポテンシャルの高い行為はあまりありません。また、釣り人としても才能豊かな人が、経験の重みのうえに作り上げたタイイングツールを使いこなす楽しみもあります。もし、タイイングに取り組んでみたものの、どうも好きになれないという人がいらっしゃるなら、ツールを入れ替えてみるのも手です。高い包丁を買っただけで、料理の腕が上がったように思う私のことで、他の方はどうかわかりませんが、ハサミ1つ、ボビンホルダー1つを取っても、よくできたものとそうでないものは、まったく気持ちの入り方が違ってくるものです。

 

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 では、Tight Loops!

 

東 知憲

CASTING TIP May 10

2022.05.10

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目を逸らしてターゲットを定める

 

海の浅場、フラットを泳ぐ魚を狙ってキャストする釣りは、フライフィッシングの中でも一種特殊な「種目」だと思います。ライズの釣りと違ってリピートはほとんどないからワンチャンス、かつ釣り人に与えられた時間枠も短い(ないしごく短い)ことがほとんど。そのことを知っているからこそ、手が震える、膝が笑う。

 

オートバイのコーナリングでよく使われる表現に「バイクは視線をやった先に向かう」というものがありますが、フライフィッシングでも似たことがいえます。つまり「フライは視線の先に飛ぶ」。つまり、ある程度フライキャスティングの技術が身についているなら、魚の頭に落とすことは難しくない。しかし、です。フライを落とす場所は必ずしも頭の真上が良いとは限りません。魚種と状況によって、フライを置く位置は大きく変わってくるのです。

 

ベタ凪のなか、30センチくらいの水深でクルージングとテイリングを繰り返すボーンフィッシュは、頭の上にフライを落とすと、どれだけそっと置いてもジェット速度で逃げていくことでしょう。進行方向(ボーンフィッシュは比較的安定した直線軌道を取ることが多いです)の2メートルほど先にフライをあらかじめ起き、近寄ってきたところでちょんと動かす、というのが効果的。スレた黒鯛なども、上から落ちてくるものに対してはきわめて用心深いものですからアプローチとしては同じ。フラットで釣れる魚として最大級、フロリダキーズのターポンは、泳いでくる魚の「ボート1艘ぶん」前に落としておくことも普通です。

 

たとえばこんな魚の姿が、波間に見えたとします。左側が頭、ゆっくり遊泳中。フライを進行方向に置かなければいけませんが、見逃してはいけないと魚から目をそらさずにフォルスキャストしてシュートすると、だいたいは魚の目のまえにフライが落ちます。何十年も生きて百戦錬磨の巨大魚は、上から落ちてくるもの=危険物という共通認識があるので、着水を見られたフライは、ほぼ無視されてしまいます……

 

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ではアングラーは何をするべきか? 魚から、いったん目をそらさなければなりません。魚種の傾向、出会った魚の気分、外的要因などを考え、どこにフライを落とすべきか瞬時に判断し、そこにターゲットのリングを設定します。そのリングを見つめたまま、できるだけクイックにフォルスキャストをして、シュートしてやるのです。

 

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本来この赤いリングはもっと左側に欲しいところなんですが、写真から外れてしまいますので、いまは魚体 1.5 本ぶんのところに便宜上置きました。このように、泳いできたターポンの場合はまずターゲットを投げ越し、着水と同時にリトリーブして距離を合わせ、魚の到着を待つことが多いものです。ただし、眠っているように表層に浮かぶターポンの場合(朝に多い)は、まさに頭の上を叩くようなプレゼンテーションが必要。このターゲット設定は、ガイドさんがいるならガイドさんに聞くのがいちばん早道です。リーダーやティペットの存在にきわめて敏感な魚種もいますので、そんな場合は決して投げ越さず、魚の動線よりもショート気味のキャストで勝負することになるのです。

 

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変わり続けるシチュエーションに合わせる柔軟性を持って、楽しく釣りをしてください! では、Tight Loops!

 

東 知憲

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